ぱぷりかの機械系技術ノート

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オイルシールによる軸の摩耗

すべり軸受等で軸を支持する場合、潤滑剤を内部に保持するため、オイルシールが用いられる。その際、オイルシールのリップと接触する軸の表面は徐々に摩耗していく.摩耗が進行すると,最終的にはそこからオイルが漏れ出ることになる.

オイルに粉じんなどが混入していた場合にこのような摩耗が著しく進行する.よって,粉じんの混入を防止することが摩耗を抑えるための第一の対策となる.しかし,機械によっては完全に粉じんをシャットアウトすることが難しいこともある(粉砕機など).その場合には軸の硬度を上げるという対策が取られる.具体的には以下の方法が挙げられる.

  • 焼き入れ
  • めっき(硬質クロムメッキ)
  • 溶射

以前オイルシールのメーカー(N社)に確認したところ,焼き入れとめっきを推奨された。溶射はオイルシールにとってあまり良くないという話を聞いた。溶射部分をミクロ的に見た場合,軽石のような多孔質の構造となっており,オイルシールのリップが摩耗してしまうとのことであった.まためっきの場合,厚さは50μmが良いとのことであった.(軸が50μm以上摩耗すると漏れるというデータがあるらしい)

以前このような対策を実施したとき,私のグループではめっきを採用した.理由は次のようなものだった.

  • 焼入れの場合,寸法のくるいが生じるおそれがあったため
  • 衝撃荷重がかかる部分であったので,焼入れによって,じん性が失われることは避けたかったため
  • 溶射は上記のようにメーカーから避けたほうが良いとアドバイスされたため

実施してから2年が経過し,今のところオイルシールからオイルが漏れたという報告は来ていないが,引き続き経過を観察してゆく.

なお,今回は上記のような理由によりめっきを採用したが,めっきの場合には加工物全体をマスキングしないといけないので,手間がかかる.実際ネット等で調べてみると溶射を行っている事例をよくみかける.実際にはメーカーが気にするほど溶射で問題は起こらないのではないかと思う.

また,めっきの厚さとしてメーカーから50μmを推奨されたということを述べたが,この理由として50μm以上のめっきが現実的に難しいという背景もあるのではないか.加えて,メーカーとしては軸が50μm以上摩耗すると漏れるとの意見であるが,私の経験上(摩耗溝の形状にもよると思うが)50μm程度では気になるほどの漏れは生じず,それ以上の(たとえば0.1mmとか)深さになってようやく問題として認識されることが多いと感じている.そういう意味では,厚い溶射で摩耗対策をした方が良好な結果が得られるという見方もできる.

状況に合わせて上記のいろいろな選択をすればよいのではないかと思う.